15年前に日本で最初にUIUXを広め、最先端テクノロジーとデザインに関して数多くの信頼と実績を持つ、株式会社ZEPPELINの代表、鳥越康平氏をご存知でしょうか。

 今回は彼が書いた、とあるnoteの記事に感銘を受けて取材させて頂くことになりました。

▼お金よりも強いビジョン〈宗教的思想〉が事業拡大の鍵になる理由についてより詳しく書いてみた

https://note.mu/koheitorigoe7/n/n05925b12792c

サービスをつくるときは何よりも<宗教的に強度の強いビジョン>を持たなければならない、ということです。( noteから抜粋)

今回は、鳥越氏が語る「宗教的に強度の強いビジョン」を、ZEPPELINの企業文化とリブランディング実体験と共に深堀りしていきます。

 表現の過激さから、良い印象を持つ方もいれば、ネガティブな印象を持つ方もいらっしゃると思います。

 しかし、本質は驚くほど私達の身近に存在し、コーポレートブランディングを推進する上で重要な要素を捉えていました。

株式会社ZEPPELIN 代表取締役社長 鳥越康平
大学卒業後、SAMSUNG電子に入社。主に携帯端末等の最先端機器の企画開発に携わる。2005年に日本に帰国し、ZEPPELINを設立。通信、電子機器、自動車、医療、教育など幅広い業界で最先端テクノロジーを創り出し活躍。AR・AI・3D・ブロックチェーンに関する新事業創出、デジタルイノベーションを推進している。

技術でも価格競争でもない差別化こそが、宗教的なまでに強度なビジョン

─鳥越さん、本日はよろしくお願い致します。

早速ですが、「お金よりも強いビジョン〈宗教的思想〉が事業拡大の鍵になる理由」について、詳しく伺わせて下さい。

鳥越:人口の増加に伴い、物もサービスも爆発的に増えています。

そういう状況下の中で、どうやって人に選ばれる製品・商品を生み出せばいいのか?差別化を生み出すための根っこの部分が「宗教的に強度の強いビジョン」であると、考えています。

私達が、サービスを選ぶ時の判断基準に価格やテクノロジーがあると思いますが、テクノロジーは現代において広くナレッジが行き渡りました。ある企業しか作れないテクノロジーというのはほとんど存在しない時代です。

そうすると、差別化のポイントは主に価格になりますが、価格の競争というのは終わりがなく、安くすれば他社はさらに安くしてきます。

そんな出口のない市場環境の中で、これから大きな差別化ポイントとなるのが、宗教的なまでに強度なビジョンなのです。

目の前で起きていることに、共感されなかった過去

鳥越:とはいえ、10~5年ほど前までは「宗教的に強度の強いビジョン」が必要な理由を周りに伝えても、伝わっている感覚が持てませんでした。

10~5年といえば、AppleやGoogleが凄まじい成長を遂げた時期で、Apple製品の熱狂的なファンが生まれたのもその時期です。

まさに「宗教的に強度の強いビジョン」による事業拡大が、目の前で起きていたはずなのに、共感を得られることはほどんどなく、私が変な人扱いでした。笑

歴史的背景から根付くトップダウン

鳥越:日本で理解されづらい原因はいくつかあります。ひとつは、歴史的背景から根付くトップダウンの文化です。

戦後当時、日本は軍隊式なトップダウン組織が民間企業でも一般的とされていました。現在もそういった企業が多いように、軍隊式な考え方は長年受け継がれ、定着しています。トップダウンであることにより、意思決定のスピードを早め、企業を成長させてきました。

しかし、物もサービスも溢れ、海外からも様々なサービスが入ってきた今、そのような価値観だけでは立ち行かなくなってしまうのです。

ハードウェア産業が強すぎた事により、ソフトウェア思考がかけていた

鳥越:そして、日本はハードウェア産業が強すぎた為、ソフトウェアの思考を持っている人が少なかった事が、後の問題となりました。

人間は、本質的に中身で意思決定をする生き物です。

人間自体にも外見がありますが、その人の能力や人となりが評価になるのと同じで、サービスも、ハードウェア(外見)よりもソフトウェア(中身)で何が出来るのか、何を与えてくれるのか、が大切ですよね。

この業界も、ハードウェアだけ作れば人を動かせる時代ではなくなりました。

今まさに、日本のハードウェア産業が外資企業に切り崩されている印象を受けますが、ソフトウェア産業のほうは、インターネットの広がりによってもっと早くに切り崩されてしまったと感じます。

最近では、国内でもソフトウェア産業を生業とする企業が増えていますし、組織のあり方を変えようとする企業もたくさん出てきました。

少し前では理解されなかった、自分の想いが日本の社会にも浸透してきている感覚があります。

ZEPPELIN社内ではどのようにビジョンを掲げている?

─強いビジョンは、クライアントだけでなく、従業員や一緒に働くパートナーにとっても大切だと考えています。御社の中ではどのように伝えていますか?

鳥越:ZEPPELINの中で言い始めたのが8年以上前になります。

毎日ビジョンの重要性について社員と話すうちに、ZEPPELINの中ではもう当たり前に思考するようになりました。

重要なのは伝えることではなく有用性の体感

鳥越:重要なことは、伝えることではなく、強度の強いビジョンの有用性について社員に体感してもらうことだと思います。

ビジョンがない時、またはビジョンが弱い時にサービスがどのような結果になるのか?

その反面、宗教的なまでに強度の強いビジョンがあればどれほどうまくいくのか?

ゴール設定のしやすさ、意思決定の容易さとスピード感、機能要件の定義のしやすさ、サービスに関わるメンバーのモチベーションや一体感など、全てにおいて有効だということを頭だけではなく体感してもらうことが重要です。

当時私が抱えていたモヤモヤの中に「なぜ多くの日本企業は、社会的意義を称えないまま、色々な事業をやっているのだろう」というのがありました。

どの会社のホームページを見ても、だいたい「豊かな社会をつくる」といったような漠然としたビジョンが書いてあります。私としては、既に結構豊かすぎるくらい豊かだと感じますけどね。笑

つまり、誰も方向性を示していないのです。

社会をこう変えたい、という想いがなければそもそも事業をやる意味ってないのではないか?と思うんです。

先程もお伝えしたとおり、当時は周りの理解を得ることが出来なかったので、苦しいときもありましたが、伝え続けて今があります。

ビジョンへの共感を採用基準にはしない

─同じビジョンに共感する強固な組織を作るためには、採用も非常に大切な要素だと考えています。採用面接をする上で、どのような点を気にされていますか?

鳥越:それでいうと、採用の段階での強い共感は基準にしていません。

例えば、イーロン・マスクのように「人類を火星に移住させる」のような、強く強烈なビジョンを持っている場合であれば、同じ考えの人を選んだほうが良いと思いますが、大体の企業はもう少し抽象的なビジョンを持っています。また、共感しようと思えば共感できてしまうのもビジョンです。

それよりも大切にしているのが、パーソナリティやその人の働き方です。

例え話ですが、結婚する時に「幸せな家庭を作りましょう」って言うじゃないですか。これもビジョンといえばビジョンです。大抵の人は共感すると思います。

ですが、結婚した後に毎晩飲み歩いて帰ったり、家事に協力しなかったり、その人のパーソナリティや生き方かもしれませんが、そういったことを続けていたら「幸せな家庭を作りましょう」というビジョンから遠ざかってしまいますよね。

仕事も同じです。

ビジョンよりも、パーソナリティや、その人自体の働き方が合わないとその後上手く行きません。それに、ビジョンへの共感は、実際に同じ方向に向かって共に走り、自分たちの方法で目的に到達できそうだと体感できてこそ、初めて共感するものだと思います。

ZEPPELINリブランディングへの挑戦

鳥越:ZEPPELINでは2019年7月にリブランディングを行い、現在は「全く新しいテクノロジーとデザインを全ての人に」というビジョンを掲げています。

このビジョンに変えてからというもの、第二四半期の売上は前年同期比が158.1%、前期比は173.3%という結果になりました。結果的に急成長を遂げることができています。

現代において最先端のテクノロジーとデザインを享受できている人は非常に限られており、それらを全ての人が使えるようにしよう。というビジョンを掲げたことによって、社員の思考が自然と「どのようにしたらより多くの人に届けられるか?」「難しいテクノロジーやデザインを簡単に使ってもらえるようにするにはどうすれば良いか?」という風に変わったと考えています。

改めて感じた、伝えることの難しさとそれに要する時間。

─リブランディング直後、素晴らしい結果ですよね。しかし、リブランディングは容易なことではないと思います。どんな点に苦労されましたか?

鳥越:苦労した点は、社内の理解を得ることが非常に難しく、時間が掛かったことです。それまで掲げていたビジョンを引きずりおろして、ほぼ新しいビジョンに切り替えたのですから無理もありません。

ですが、自分の中では何時間もかけて、あらゆるロジックで繋がっているのです。それを他の社員に伝えることが難しい。

また、ビジョンを変えるという事はビジネスモデルも変わるという事なので、その当時のオペレーションも変わってしまいます。私がどんなに進むべき道だと気が付いたとしても結果が出ていない状況で社員に伝えるのは難しく、とても時間がかかりました。

定量、定性共に現れた結果「こういうのがずっと欲しかった!」。

鳥越:ですが、よかったと思う出来事も多いです。

もちろん売上が伸びていることは大きいですが、コミュニケーションがあまり取れていなかったエンジニアリング部とUIUX部のメンバーのコミュニケーションが取れ始めていたり、PRやマーケティングのメッセージを検討する際にも意思決定しやすくなりました。

何より、昔と比べ本当に多くの顧客からお声がけいただけるようになったことと、クライアントから「こういうのがずっと欲しかった!」と言われることが嬉しい出来事ですね。

情報経路をシンプルにし、浸透圧を上げる

─伝える手段として、どのような手段を取っていますか?全社的にコンテンツを用意されていたら詳しく教えて下さい。

鳥越:そうですね、全体ミーティングは実施しています。

ですが、私達のミーティングは至ってシンプルで、必要情報のみの共有です。少し前は、私がビジョンを語ったり、皆でワークショップをやるなど、様々なコンテンツを用意していましたが、リブランディングに伴い情報経路を整備しました。

社内のコミュニケーションのとり方も、各企業によってベストな方法があると思います。

提供しているソリューションが明確な場合や、大企業からの分社化など、ある程度情報経路の土台がある場合はまた違いますが、ZEPPELINの場合は、私がゼロから立ち上げた会社なので、様々な情報が行き交い過ぎてしまうと、社内の混乱を招いてしまいます。

私達の規模(従業員30名前後)くらいからは、この情報経路の設計が非常に重要です。

例えば、あるデザイナーが作業をしている時、横から経営情報などが流れ込んできたら、それってノイズじゃないですか?そのタイミングでは、知らないほうが捗ることもありますよね。そういった、情報が届く優先順位をしっかり整えることは、成果を出す上でも、ビジョンを共有する上でも、非常に重要です。

宙に浮いた権力。ZEPPELINリブランディングの裏側。

─リブランディングに取り組んだきっかけはありますか?

鳥越:昔の話をすると、組織の中に部がありました。営業部とかデザイン部とか、いわゆる一般的な部署です。

当時の反省点としては、部が機能していないのに、部長などの役職者が権力をもった気分になってしまったことですね。

上長を通さないと意見を言ってはいけないとか、部署間のコミュニケーションに圧力がかかるなど、ZEPPELINに限らず、同じような問題を抱える企業は沢山ありますが、この状況を継続することに危機感を感じ、一度全て壊して再構築することにしました。

ある日突然「今日から、部署も、肩書きも、全て取っ払います。」と発表した日の、皆の驚き具合というか、怒り具合というか。特に当時の部長陣からは強く抵抗感を感じました。

ZEPPELINは、社員同士を下の名前で呼び合う文化がありますが、〇〇さんとか〇〇部長とかって呼び合う会社もあると思います。

何かというと、〇〇部長のように役職呼称されてしまうことによって、呼ばれている方が部長らしくしなくてはという意識が働き、部長らしく振る舞ってしまうことが問題です。

部長らしく振る舞うことで、部下からの期待も必要以上に集まります。しかし、人間だれたって得意不得意があるように、役職者だってオールマイティーとは限らず、部下の期待に100%答えられるとも限りません。そういったギャップが組織に溝を作ってしまうこともあるのです。

その組織独自の文化があればそれでいいのに、肩書が付くことによって、いわゆる日本社会の部長らしさが、良くも悪くも付いてきてしまいます。

組織を作り直してからは、無駄なコミュニケーションコストが省けたり、円滑に回っている実感がもてますね。

ーリブランディングするという意思決定について、悩みましたか?

鳥越:悩みました。6ヶ月くらいですかね、自分の人生の中でも結構苦しい6ヶ月間でした。

色々な事がありましたが、最終的に人は「自分が信じた道しか生きられない」。そして、誰も悪くないんです。そういったことを考え、考え抜いて、意思決定しました。

結果として、今とても良い方向に組織が向いていて、本当に良かったと感じています。

しかし、また組織が大きくなるにつれ、同じ問題に直面したり、組織改革が必要になるタイミングもおそらく来るでしょう。定期的に、社内での方向性を合わせ、見直しをする期間を設けていきたいと思っています。

後戻りができない!新規事業立ち上げにおいて重要な3つのポイント 

─最後に、企業文化形成を進めたいと考えている方々、現在推進する立場にいる方々に向けて、島越さんが大切にされていることを教えて下さい。

鳥越:企業文化形成の根幹にもなる部分であり、新規事業を立ち上げる際に強度の強いビジョンを作る必要がありますが、その際に後戻りできない3つの重要なポイントがあります。

明確で分かりやすいビジョンにすること

鳥越:ビジョンの分かりやすさは非常に重要です。メンバーを巻き込む時にも、社内で説明する時にも、そしてユーザーを獲得する時にも明確で分かりやすいビジョンであれば困ることはありません。

ビルゲイツがWindowsを作った時に「人類全員が一人一台コンピューターを持つ時代を作る」と言ったことは有名ですが、これぐらい明確で分かりやすいビジョンだと、どのような時でも判断に迷うことがありません。

グローバルに通用するビジョンにすること

鳥越:日本ではこのポイントを意識して事業づくりをしているケースをほとんど見ませんが、グローバルに万国共通で通用するビジョンをはじめにつくらないで、後からグローバルに拡大しようとした際に困っているケースをよく見ます。

メルカリがアメリカ市場を獲得するためにサービスを根本から見直してリブランディングしたことはよく知られていますが、日本市場向けとアメリカ市場向けでほぼ違うサービスになってしまっています。これでは管理コストが増大し、グローバルにスケールさせるための足かせになってしまいます。

FacebookやGoogleなどはほとんど同じサービスを言語だけ変更しスケールさせています。そのためグローバルなスケールを非常にスピーディーに展開できます。

ビジョンとビジネスモデルが一致していること

鳥越:最後はもっとも重要なポイントですが、ビジョンとビジネスモデルは完全に一致している必要があります。例えば、極端な話「人類を火星に移住させる」というビジョンを掲げながら、ビジネスモデルがeコマースのビジネスモデルではビジョンへの到達は不可能です。

この事例は極端すぎますが、ビジョンとビジネスモデルが一致しないケースはとても多く、一致しないまま走り始めて、後から変更がきかなくなり苦しむケースもよく見ます。

強度の強いビジョンを掲げながら、そのビジョンにいつか到達するためのビジネスモデルを検討する必要があるわけです。このビジョンとビジネスモデルの一致については、いくら時間をかけてもかけすぎるということはないぐらい熟考が必要になります。決して後から戻せるとは思わないことが、成功のための唯一の方法です。

フェーズごとに組織を見つめ直す

鳥越: 企業は成長と共に、スパイラルを描きながら拡大をしています。

大企業は、私達が直面した問題を既に乗り越えて拡大していると想いますし、私達も、今後組織が大きくなるにつれ、同じような壁にぶつかりながら成長していくものだと思っています。

組織が硬直したから柔らかくしたいというニーズがあれば、真逆のアプローチをするでしょうし、逆のアプローチをすればまた同じような問題に直面するでしょう。

そのフェーズごとに、組織を見つめ直し、問題に向き合うことで「宗教的なまでに強度の強いビジョン」を持って事業をスケールさせることが出来るのかもしれません。

WRITER
うちだまみ
うちだ まみ
広報のうちだです。 趣味はサッカー観戦とお酒とゴルフ。